いま、子どもと親に何が起きているのか?
-親子サポート最前線から見た「現代子育て事情」-

 「今どきの若者は…」と嘆く声は、ギリシャ・ローマの時代からあった、などという話を聞いたことがある。
  それにしても、耳を疑うような衝撃的な事件が頻発し、子どもの“育ち”の問題が、連日のようにニュースに取り上げられるような状況は、かつてこの国が経験したことがない事態だろう。今や、「最近の子どもは、いったいどうなっているのか」という懸念を感じない人はいないはずだ。
  学校教育のあり方に問題があるのか、親の育て方が原因なのか。核家族化、地域の教育力の低下、自然環境破壊、テレビやTVゲーム、食品添加物の影響等々、各方面からさまざまな原因が指摘されている。
  しかし、現実に困難な状況に陥っている親子に、直接的継続的に関わってサポートしている立場からの発言が少ないことを、私はつねづね残念に思ってきた。親子の生の声に静かに耳を傾け、その心のひだに寄り添い続けてこそ、初めて見えてくる真実があるのではないだろうか。

  私は長年、子育て相談(親子カウンセリング)にたずさわり、のべ数千組の親子と付きあってきた。ケースの多くは、言葉によるアドバイスだけでは立ち直れない、かなり深刻な悪循環に陥っている親子である。親の気持ちを受けとめ、子どもの心の深い部分に思いをはせながら、少しずつもつれた糸をほぐしていく、そんな地道な作業である。
  どこにでもいるような親、どこにでもいるような子どもが、ちょっとしたボタンの掛け違いから、どんどん悪循環に陥っていくのだ。しかし、その経過を子細に考察していくと、そこには、現代の日本の社会の状況が如実に反映していることに驚く。ある種の心理的な傾向、この社会の思考様式の変化が、“子育ての難しさ”に深く関与しているのである。

  相談室を訪れる子どもは、現代の日本人全般に共通する“懸念すべき傾向”が早い時期に表面化しただけ、むしろ幸運ではないかとさえ思う。小中学生や高校生の驚くべき犯罪、引きこもりやニートの問題、大人のストレス性疾患の増加などは、同じ根っこから派生しているような気がしてならない。
  社会の矛盾は、集団のもっとも弱い部分にまず表れるという。子育ての混迷は、現代の大人社会の“行き過ぎた傾向”に対する警告なのだ。今の日本の社会が何を得て、何を置き去りにしてきたのか、われわれはこれからどこに向かって進むべきなのかが、子育てサポートという小さな営みを通して、はっきりと見えてくるような気がする。

  一本一本の木を見つめることにより、森全体にどのような風が吹いているのかを解明していこうというのが、この文章群のめざすささやかな試みである。

※第5章の続きと、第6~8章は未完です。

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