(2)緊張しすぎて、落ち着けない子ども

 今、保育園・幼稚園の先生たちは、落ち着きのない子どもへの対応に苦慮している。勉強のカリキュラムがきちんと決められている小学校では、さらに事態は深刻だ。昔も、入学式の最中に椅子の上に立ち上がり、父兄席を眺めては「絶景かな」とやっているわんぱく坊主はたまにいた。しかし最近の入学式では、それが一人や二人ではないという。授業中も、勝手に席を離れて歩き回る子どもを注意していると、別の子どもがウロウロしはじめる。「昔の小1は、こんなではなかった」と嘆くベテラン教師は多い。学級崩壊は、2,3人の落ち着きのない子どもの存在がきっかけになると言うが、現代の子どもは全体的に落ち着きに欠ける傾向があるという。
 「子どもとは、本来落ち着かないものだ。落ち着いている子どもの方がおかしい」「子どもの自由な発想や行動を、大人の一方的な考えで管理しようとするのは間違いだ」。そう思う方もいるだろう。小学校の教師をしていた頃、私もそのように考えていた。しかし、最近の子どもの落ち着きのなさは、少し様子が違うのである。
 昔の子どもは、何か興味を惹かれる物を見つけ、それで体が動いてしまう場合が多かった。しかし今の子どもは、さしたる目的もなく、暇つぶしがてらにフラフラとさまよい出てしまう感じなのだ。注意すると、いったんは席に着くが、また夢遊病者のように歩きだすことも多い。無自覚のうちに体が動き出すかような独特の感じに、現場のベテラン教師たちも戸惑いを隠せない。いったい、これは何を意味するのだろうか。

 ある時、小学校への入学を直前に控えた幼稚園の子どもの相談を受けた。「極端に落ち着きがないので、入学後が心配だ」という。利発な子どもで、初対面の私に対して、やれムシキングがどうの、ポケモンがどうのと、盛んに話しかけてくる。「あ、それ知ってる」などと相づちを打ってやっていたが、こちらの問いかけに応じないうちに、もう次の話題に移ってしまう話しぶりが気になった。そのうち、部屋に置いてあったおもちゃで遊び始めたが、次から次へとおもちゃを取り替え、ちっとも落ち着いていない。幼稚園でもこんな調子で、自由遊びの時はまだよいが、みんなで一斉に活動をする時なども、自分勝手な行動ばかりだという。
 こういうタイプの子どもは、一見リラックスしているように思われるが、実は、体の緊張レベルがとても高いのだ。絶えず動き回ったり、しゃべり続けたりするのは、それによって緊張した体の不快感を紛らわせようとしているふしがある。極端にくすぐったがりな子が多いのも、体が緊張しているからだ。こういう子どもが、カウンセリング的なやりとりを通して、本当のリラックス状態を経験すると、自然に落ち着きが出てくる。また、妙にくすぐったがることもなくなっていくのだ。

 愛媛県で「なのはな子ども塾」を主宰する松田ちからさんは、子どもたちの体の過緊張に着目し、ゆったりとした働きかけによって体の緩みを促す“ゆらゆら・ぎゅっぎゅっ体操”を考案した。そして、愛媛大学大学院の現職教員対象の専攻科で学んだおり、小学3年生のクラスで、約9ヵ月間にわたり、“ゆらゆら・ぎゅっぎゅっ体操”を試行し、追跡調査を試みた。その結果、ほとんどの子どもに落ち着きが出てきたという。また、学習に困難を示す子どもの中には、学習の内容が分からなくても、教師にノートを見せることを拒む子が多くいた。しかし体が緩んでくると、わからない時には「教えて」と積極的に助けを求める子どもが増え、最善を尽くそうという意欲が感じられるようになったという。

 栃木県宇都宮市にある「さつき幼稚園」では、1980年頃から、“じゃれつき遊び”を取り入れて効果を上げているという。子ども同士で、思う存分じゃれあって発散させると、その後の活動に落ち着いて取り組むことができ、意欲的になるのだそうだ。
 大人の場合は、マッサージに行ったり、温泉にのんびり浸かったりすると、体の過緊張が緩和される。しかし子どもの場合は、大声をあげたり、体全体を激しく動かしたりして発散した方が、リラックスできるのだ。“じゃれつき遊び”で大騒ぎをした後の方が、心と体がほどよく緩み、落ち着いて活動できるようになるのもうなずける。

 “ゆらゆら・ぎゅっぎゅっ体操”で、ゆったりと大人に体を預ける体験は、親に甘えて抱っこをされた時の感覚とよく似ている。“じゃれつき遊び”による大騒ぎは、ダダをこねる時の気持ちの発散と通じるものがあるだろう。
 「落ち着きのない子どもが増えている」という状況の背景には、体の過緊張があり、さらにその根っこには、甘え下手・ダダこね下手による感情抑圧傾向が大きく影を落としているのである。


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