「ふつうの子育て」が、うまくいかない理由

 

●「子どもの気持ちを受けとめる」が、うまくいかない
親子関係の第一歩は、赤ちゃんの泣くという行為です。赤ちゃんは、生存に必要な欲求を泣くことで伝え、親はそれに応えます。このように、「泣く→受けとめる→落ち着く」ということを繰り返し経験する中で、赤ちゃんはしだいに、自分に心地よさと安心感を与えてくれる親の存在を意識するようになるのです。
ところが、アタッチメントが進みにくい赤ちゃんには感情抑圧傾向があり、欲求があっても、それをストレートな泣きで表現しようとしません。そういった赤ちゃんの泣きは、感情表現ではなく、感情爆発です。親に受けとめられて落ち着くのではなく、泣くだけ泣いて、感情を吐き出しきることで落ち着くのです。そこでは、「感情表現→親による受容→満足」という親子間の気持ちのキャッチボールは成立していません。ほとんど泣かない「サイレントベビー」の場合も同様です。親からすれば、お子さんの気持ちはとてもわかりにくいものになってしまいます
幼児期になると、多くのお子さんは、親への「接近行動」や「感情表現」が盛んになり、さらに気持ちがわかりやすくなっていきます。ところが、感情抑圧傾向があるお子さんは、それとは真逆の、親からの「回避行動」と「感情抑圧」が増えていきます。親への要求のほとんどは、感情表現を回避し、「まぎらわし状態」を維持するための要求です。ですから、「子どもの気持ちを受けとめよう」とすればするほど、感情抑圧傾向やそれにともなうアタッチメントのゆれが進んでしまうので、親子関係はさらに行き詰まってしまうのです

●「ダメなことはダメと教える」が、うまくいかない
成長とともに、子どもは自己表現に自信をもち、親への要求度を高めてきます。しかし、「行き過ぎた自己主張」が目立つようになる時期には、自己表現とともに、自己抑制(他者受容)を学ぶことが必要です。それが、「ダメなことはダメと教える」ということの意味です。親が子どもの要求に応じないとき、子どもの心の中では怒りや悲しみが生まれます。アタッチメント形成が進んでいるお子さんの場合は、そういったネガティブ感情を親に表現し受けとめてもらうことで、平静を取り戻していくことができます。
ところが、「アタッチメントのゆれ」を抱えるお子さんは、ネガティブ感情を親に向かって表現せず、まぎらわし行動によって自己処理しようとします。すると、そういったまぎらわし行動自体が、新しい「困った行動」なってしまうのです。また、抑圧しようとしたネガティブ感情が大爆発を起こす場合も多く、そうなると、泣きわめきが長時間続き、手が付けられなくなります。その結果、「ダメなことはダメと教える」ことが難しくなってしまうのです。

●「愛情をもって接する」が、うまくいかない
親の愛情が育っていくためには、子どもの協力が必要です。そこでは、子どもの感情表現や接近行動が大きな役割を果たしています。嬉しいことがあったとき、気持ちを共有してもらいたい子どもは、親に笑顔を向けたり、目を合わせたりします。悲しいことがあったときは、泣き顔を親にアピールしたり、近寄ってきたりします。抱っこをすると、親に身を任せて落ち着きます。親を信頼し、ありのままの自分を表現したり、親密なふれあいを求めたりする姿に、親は「かわいい」と感じ、お子さんへの愛情がさらに深まっていくのです
ところが、感情抑圧傾向のある赤ちゃんの場合は、親に対する感情表現が乏しく、感情を共有してもらいたいという様子や、ふれあいを求めての接近行動もわずかです。親の愛情表現に対して、嬉しそうな応答も少なめです。そうなると、親は片思い状態になり、「愛情をもって接したい」という意欲がどんどんしぼんでいきます。その結果、親は「子どもに対する愛情が足りない」と自分を責めたり、お子さんへのイライラが止まらなくなったりします。

→「アタッチメントのゆれ」の早期発見