「アタッチメントのゆれ」による育てにくさとは?

 

お子さんの困った行動が「個性の表現」だったなら、成長とともに理性が発達してくるので、親の悩みは消えていきます。これが「ふつうの育てにくさ」です。ところが困った行動が、「アタッチメントのゆれによる育てにくさ」だったとしたら、年齢とともに、さまざまな新しい「困った行動」が増えていきます。
「ふつうの育てにくさ」による困った行動と、「アタッチメントのゆれによる育てにくさ」による困った行動は、行動パターンにはっきりとした違いがあります。

■落ち着きがないお子さんの場合
▶「個性の表現」なら・・・成長のために子どもは、さまざまな物に興味を持ち、親から離れて探索活動をすることが必要です。その場合は、生き生きとした表情から、お子さんの気持ちが感じ取れます。しかし、なにか不安なことがあったり、親から離れすぎてしまったときは、すぐに親のもとへ帰ってきます。このような親への接近行動、親にくっつく(attachment)という本能的な行動が、「アタッチメント行動」と呼ばれているものです。
▶「アタッチメントのゆれ」なら・・・「アタッチメントのゆれ」を抱えるお子さんの落ち着きのなさの多くは、探索活動ではなく、まぎらわし行動です。何かに興味関心を持ったからではなく、不安や緊張を感じるとき、それをまぎらわそうとして、動き回るのです。何に興味関心を持って動いているのかが、お子さんの表情から読み取りにくいのは、そのためです。しかし、不安や緊張を抱えているような表情にも見えません。それは、感情抑圧傾向があるからです。

■聞き分けが悪いお子さんの場合
▶「個性の表現」なら・・・子どもは自己表現力の成長とともに、「行き過ぎた自己主張」が目立つようになります。そういった時期には、親が子どもの要求に応じないことで、子どもに自己抑制力を身につけさせる必要があります。自己表現と自己抑制のバランスを身につけることで、友だちとの関係や集団参加がスムーズになるのです。
ところが、要求に応じないと、子どもの心の中には怒りや悲しみが生まれます。そのようなとき、アタッチメント形成が進んでいるお子さんは、気持ちを親に向かって表現し、「泣いて→すがって→甘えて→落ち着く」という経過をたどります。親に受けとめてもらうことで、比較的短時間で平静さを取り戻し、自己抑制を身につけていくことができるのです
▶「アタッチメントのゆれ」なら・・・「アタッチメントのゆれ」を抱えるお子さんは、親が応じないことで生じる怒りや悲しみを、親に受けとめてもらおうとはせず、自己処理を試みます。物に当たる、逃げ出す、人や自分を傷つけようとする、「おっぱい!」「トイレ!」「お水!」「おやつ!」「テレビ!」などの要求をする、指しゃぶり、歯ぎしり…などはすべて、自己処理のためのまぎらわし行動です。自己処理に失敗したときは、感情爆発になります。泣きわめく、暴れる…が長い時間続きます。怒りや悲しみの感情を、親に向かって表現するのではなく、空中にばらまいているのです。こうなると手が付けられなくなり、それを恐れる親は、だんだん子どもの言いなりになるしかなくなります。しかしその結果、お子さんは自己抑制を学ばないので、ますますお子さんの行動に振り回されることになってしまうのです。

「アタッチメントのゆれ」の表れ方は、お子さんによってさまざまです。「すぐに手が出てしまう」「寝つきが極端に悪い」「こだわりが強い」「感覚過敏」「ことばの遅れ」「身辺自立が進まない」「発達障害のような行動が目立つ」など、さまざまな困った行動・気になる様子の裏に、「アタッチメントのゆれ」が隠れていることがあります。

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