(2)言葉の発達【0~1歳】

 言葉は、ある日突然出てくるわけではありません。コミュニケーション(気持ちのやりとり)という面からすると、「言葉による気持ちの表現」の前に、まず「表情や態度による気持ちの表現」が育ってきます。多少言葉が遅れていたとしても、「表情や態度による気持ちの表現」が順調に進んでいるのなら、それほど心配はないと言えます。それは、「言葉への道」をちゃんと歩いている証拠だからです。
  また、言葉以前の「表情や態度による気持ちの表現」は、親子関係の進展と大きな関連があります。したがって、「うちの子は、言葉の遅れは心配ない」という場合も、ぜひ読んでみて下さい。

 【0才】

 生後6ヵ月ぐらいまでは、かまってやっても、はっきりした反応が返ってこないことも珍しくはありません。しかし6ヵ月を過ぎた赤ちゃんは、かまってあげると、いろいろな反応を返してくれるようになります。

・あやすと笑う
 話しかけたり、あやしてあげたりすると、ニコッと笑ったり、うれしそうに体を動かしたり。この表情や体の動きこそが、赤ちゃんのお返事、「表情や態度による気持ちの表現」の始まり。親子関係の第一歩なのです。ところが、かまってあげても、反応が少ない赤ちゃんは、親子関係の「初めの一歩」を、まだ踏み出そうとしていない感じです。

・抱っこすると喜ぶ
 ママに抱っこされた赤ちゃんはうれしくなって、体をバタバタさせたり、声を上げたり。または、ゆったりと抱かれながら、ママの顔を見つめて、小さな手で顔をまさぐってきたり。かわいいですね。
  ところが抱っこすると、体を後ろにそり返らせて、顔を合わせないようにする。体をねじって逃げようとする。あるいは、静かに抱かれているけど、表情が硬く、体に力が入っているので、なんとなく抱き心地が悪い。いつもこんな感じの赤ちゃんは、親子関係を避けているようで、何となく気になります。

・さわるとうれしそう
 ほっぺや手足に優しく触れてあげたり、頭をナデナデしたりしてあげると、赤ちゃんはうれしそうな笑顔を返してくれます。ところが、身体に触れられると妙に嫌がったり、体をこわばらせたりという赤ちゃんは、体を通してのコミュニケーション(気持ちのやりとり)を避けたがる傾向があるのかも知れません。

・SOSサイクル
 お腹がすいたとき、オムツが濡れて気持ち悪い時など、赤ちゃんは泣き出します。しかし、お腹はいっぱい、オムツも濡れていないというような時でも、赤ちゃんは泣くことがあります。これは赤ちゃんが、不安な気持ちになったり、ストレスが溜まったりしてきた時です。赤ちゃんは、「泣いてママを呼ぶ→あやされる→だんだんに落ち着く→笑顔が戻る」というサイクルで、緊張や不安感情を解消しようとするのです。これを「SOSサイクル」と呼ぶことにしましょう。SOSサイクルは、赤ちゃんの心の安定のために必要なメカニズムです。そして、このサイクルを通して、「自分を助けてくれる、ママという存在のありがたさ」を実感していくのです。

 つまり、ママと一緒にいることがうれしい、かまってもらうのがうれしいといった「プラスの気持ちの表現」。それから、不安やストレスが溜まったとき、泣いてママに訴えて慰めてもらうという「マイナスの気持ちの表現(SOSサイクル)」。この2つの「表情や態度による気持ちの表現」を通して、親子関係は育っていくのです。そしてこのことは、同時に、言葉や情緒の発達につながる大切な基礎です。
 しかし、0才児の「表情や態度による気持ちの表現」の成長は、ずいぶん個人差があります。けれども、1才のお誕生日が過ぎても、「反応がちっとも増えない」「ほとんど泣かないで、妙におとなしい。(または逆に、ギャーッという感じで泣いてばかりで、あやしてもなかなか落ち着けない)」「ますます気持ちが分かりづらくなってきた」と、三拍子すべて当てはまってしまう感じの赤ちゃんは、ちょっと気になります。こういう赤ちゃんは、親子関係が進みにくい傾向があるのかもしれません。

【満1才前後】

・遊んでやると、のってくる
 「満1才ごろになると、パパ・ママ・マンマ・ブーブーなど、いくつかの言葉が出てくる」と育児書には書いてあります。しかし、それに当てはまらない子はすべて心配というわけではありません。言葉がまだ出ていなくても、「ママと一緒にいることがうれしい」「かまってもらうのが好き」という感じが進んでいれば、それほど心配はないと思います。
  もっとも、性格によって、ノリの良い子とノリの悪い子がいるのは当たり前。恥ずかしがり屋さんやおとなしい子は、ノリが悪いのもしかたがありませんね。大人だって、いろいろですから。
 でも、いつも一人遊びにこだわり、ママの誘いを妙に避ける。ママとの遊びが照れくさいというより、ママからの働きかけを無視する。こういった感じがますます強まっていく子は、親子関係が進みにくい傾向があるかもしれません。

・人見知り・後追い
 この時期の子どもは、人見知りをするようになります。つまり、知らない人や慣れない人を妙にこわがり、「ママ以外は、ダメ」という感じになるのです。これは自然なことで、気持ちのやりとりの成長にとっても必要なことです。というのも、人見知り・後追いというのは、「やがてくる自立の時のために、いざというときに助けてもらえる、『ママという安全基地』(SOSサイクル)をしっかり確保しておく」という意味があるからです。
 人見知りの程度は、子どもの個性により差があります。もともと大胆な性格・表情豊か・こだわらないという開けっぴろげな性格の子は、人見知り・後追いはそれほどひどくないかも知れません。
 しかし、もともと臆病だったり神経質だったりなのに、ママがいなくても、拍子抜けするぐらい平気…という場合は気になります。ママがいなくても平気どころか、パパべったりだとか、よその人の方が好きな感じ。ママだけを避けるような感じが続くようなら、SOSサイクルにブレーキがかかっている可能性があります。
 ママいなくても平気だとしたら、ある意味、ママは楽ができます。でも一方で、「この子は、私を必要としていないんだわ」と思ってしまいます。でも、それは違うのです。生まれつき「親子関係が進みにくい赤ちゃん」は、返ってくる反応・笑顔が少なく、そうなると、どんなママでも「片思い」状態になり、赤ちゃんに向かう気持ちがだんだん萎えてきてしまうのです。つまり、「赤ちゃんに対する愛情」は、赤ちゃんの協力(笑顔)がないことには、育ちにくいのです。
 また、たとえ遊びが苦手なお母さんであっても、それだけで親子関係が行き詰まるとは限りません。多くの赤ちゃんは、お母さんより遊び上手。お母さんが苦手でも、子どものカワイイ表情、まぬけな言動で、自然に盛り上がるはずです。もともとは「子どもが苦手」というママであっても、わが子との関わりで(わが子がリードしてくれるから)、いつの間にか苦手ではなくなった、というママもたくさんいます。
 「ママを避ける」という感じの子どもには、「表情や態度による気持ちの表現」を避けてしまうような、子どもの側の「心の緊張」が隠れている場合が多いのです。

 


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