(5)しつけ(身辺自立)

 トイレ・着替えなど身の回りのことを、だんだん自分でできるようにしていくこと。これを「身辺自立」と言います。「ご飯の時間になったら、おもちゃはしまう」「ご飯の時は、立ち歩かない」といったしつけ面も、これに類するものと言えます。
 身辺自立に挑戦させるには、ある程度、子どもの方がその気になることが必要です。「やりたい!」という意欲が乏しい時期は、いくらこちらが教えようとしても、空回りになってしまいます。逆に、「自分でやりたい!」という気持ちが出てくれば、こちらが教えることを、どんどん吸収していってくれるはずです。
 一見、理解力が足りないように見える場合も、「理解力がない」というより、「理解力を発揮しようとしない」というケースも多いのです。理解力は、「理解したい!」という意欲が強いほど伸びていくものですから。
 「いつまでたっても、意欲をもってくれない」「努力する前に、あきらめてしまうことばかり」といった場合、できる・できないということよりも、土台となる親子関係に目を向けていくと、育て方のコツが分かってくるはずです。


●ママの喜びが自分の喜び
 親子関係が進みにくい子どもは、上手にできて誉めてあげても、まったく嬉しそうな表情をしないことがあります。それどころか、誉めると、かえって挑戦をストップしてしまう。こういった態度をとられると、お母さんはがっかりですね。子どもにしても、お母さんと喜びを共有しようとしない中での孤独な作業ですから、できるようになったとしても、ストレスが溜まりやすく、だんだん挑戦への足取りも重くなってきます。
 ところが親子関係が進み、ママと一緒にいることがうれしい、かまってもらうのがうれしいといった「プラスの気持ちの表現」が出てくると、その延長上に、「ママが喜んでくれるから、がんばる!」という気持ちが育ってきます。誉めてあげると、得意そうに何度もやって見せてくれたりします。成功の喜びを共有できるママとの関係があるからこそ、逆に失敗にもめげず、何度も挑戦しようとするのです。
 
●うまくいかないとき(失敗)の時の、SOSサイクル
 いつもいつも自分だけでやろうとする。手助けしようとしたり、教えたりしようとすると、ひどいかんしゃくを起こし、こちらの手助けを受け入れようとしない。あるいは、手助けを受け入れないで、あきらめてしまう。こういった様子が長期にわたるような場合は、「意欲がない」「根気が足りない」というより、SOSサイクルが育ってきていないことに原因があることが多いのです。
 うまくできないとき、子どもはお母さんに対し、「やって」とか「手伝って」とかいう感じで助けを求めてきます。これは、必ずしも言葉による表現とは限りません。態度で示せば伝わることです。子どもによっては、「できない!」と泣き出したり、かんしゃくを起こしたりします。でも、お母さんになだめられたり、手助けしてもらっているうちに、だんだん上手くできるようになってくるのです。これが、身辺自立期に必要なSOSサイクルです。こういう親子関係が育ってくると、身辺自立の足どりは、わりと着実になってくるのです。
 もっとも、自立心が旺盛になる時期には、なんでもかんでも、できもしないクセに自分でやりたがり、こちらが手助けをしようとすると、かんしゃくを起こすようなこともあります。こういう時期もあって自然です。だんだんに、「自分でやりたがる」ということと「必要なときには、お母さんの助けを受け入れる」ということのバランスがとれていくはずです。


●試行錯誤できるということ
 子どもの根気強さには、敬服してしまいます。スプーンの使い方ひとつとっても、何度も失敗を繰り返し、それでもめげずに挑戦し続けるなかで、いろいろな技術を身につけていくのです。さぞかしもどかしいことでしょうが、それでも試行錯誤を続けるのです。
  ところが、SOSサイクルが機能していない子は、「お母さんというエネルギー補給基地」を利用しようとしないので、失敗した時にダメージが大きいのです。その結果、少しうまくいかないだけで、すぐに挑戦を投げ出してしまいます。まるで、最初から100点を取らないと気が済まないで、「100点取れないんだったら、0点でいい!」という感じ。身辺自立への挑戦を促すと、どんな子どもでも最初は自信がもてないもの。しかし、いつまでたっても、挑戦を拒否したり、逃げ出したり・・・という子どもの場合、親子関係という土台(SOSサイクル)に着目していく必要がありそうです。


●「お兄さん(お姉さん)になりたい!」という気持ち
 どんな子どもでも、たとえ障害をもった子どもでも、「お兄さん(お姉さん)になりたい!」という身辺自立への意欲は出てくるものです。ただ、お子さんによっては、その時期が多少ずれることもあります。また、意欲が出てきたとしても、他の子より、上手くできるまでに時間がかかったりします。しかし、親子関係という発達の土台が育ってきているのなら、お子さんなりに精一杯、もてる力を発揮していると言えますので、あとは時間をあげ、根気強く付き合ってあげてくださいね。
 ところが、親子関係という成長の土台がなかなか育っていかず、身辺自立が進まない状態が長期にわたって続くうちに、だんだん生活全般的に不機嫌な感じになっていくお子さんがいます。ちょっとしたことで、ひどいかんしゃくを起こしたり。お母さんを困らせるためにやっているとしか思えないような、ひどいイタズラが止まらなくなったり。多動傾向が強くなったり、自傷行為が出てきたりというタイプのお子さんもいます。「言葉の問題は何とかクリアしてきたけど、身辺自立期に、手に負えない行動が出てきた。たまらず診断を受けたら、発達障害だという診断を受けた」というケースもあります。
 こういうお子さんは、「お兄さん(お姉さん)になりたい!」という気持ちがないのかというと、実はその逆なのです。自立したい意欲はありながら、SOSサイクルができていないため、不安・緊張が解消されず、無力感の中で挑戦をあきらめてしまっているのです。しかし本当は、それでいいとは思っていないので、「りっぱなお兄さん(お姉さん)らしく振る舞えない」ことの自己嫌悪で、自暴自棄になっているのです。この時期の「荒れ」のウラには、必ずこのようなカットウがあります。(ただし、「マイナス感情の表現」に完全にブレーキのかかっている子どもの場合は、とてもカットウなどありそうもない様子なので、経験がないと、なかなか見破れないかも知れません)
  このような場合は、「お兄さん(お姉さん)らしい行動することを要求していく」一方で、「お兄さん(お姉さん)らしく行動できないでいることの悔しさ」を慰めていく必要があるのです。


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