(4)友だち関係(集団参加)

 2才を過ぎ、3才に近づくにつれ、だんだんお友だちに興味をもつようになります。同じ年頃の子を見つけると、近寄っていったり。お友だちのマネをしたり。お友だちの遊びや持っている物に興味を示したり。ただこれも、個人差が大きく、引っ込み思案でこわがり屋さんの子は、関心はあるものの、なかなか友だちに近づく勇気がもてなかったりするものです。
 それでは、お友だち関係や集団参加の土台となる親子関係について見ていきましょう。ここでも、言葉以前の「表情や態度による気持ちの表現」が重要な役割を果たしています。


●お母さんが、安全基地になっている
 同じ年頃の子とはいえ、他人。お母さん以外の他人に近づくのには、勇気がいるものです。受け入れてもらえなかったり、おもちゃを取られたり、押されたりという恐い目にあうこともあります。でも、そういうとき、親子関係という基盤がしっかりとしている子は、泣いてママに助けを求めてきます。しばらくママの所でベソをかくと、気持ちが落ち着き、また、お友だちへ近づいていく意欲が湧いてくるのです。これが、この時期に必要なSOSサイクルです。恥ずかしがり屋さんの子どもでも、ママを安全基地にする様子が見られているとしたら、親子関係の土台はしっかりしていると言えるでしょう。
 しかし、お友だちの姿を見かけると、近づくではなし、かといって、「こわいヨ~!」と言う感じで、ママのところへ助けを求めに来るでもない、まったく別の方向へすたすたと逃げ出してしまう(あるいは、その場で固まってしまう)という感じ。こういった子どもは、SOSサイクルが機能していないせいで、お友だちに近づく時の不安感情が解消されないのかもしれません。
 あと、お友だち関係にチャレンジし始めのお子さんは、まだ人との付き合い方が未熟ですから、急にお友だちを押し倒すとか、ひっかくとかといった突発的な行動もあります。でも、不安感情が少なくなり、やりとり(自己主張と自己抑制のバランス)ができるようになってくると、こうしたトラブルは減ってくるものです。
 ところが、ママという安全基地で不安を解消していく親子関係が育っていないと、「言い聞かせてもダメ」「叱っても、反省の色がなく、またやってしまう」という状況に陥りやすくなります。「してはいけない」と頭では分かっていても、自分の抱えている不安・恐怖に振り回されてしまい、理性的な行動ができなくなるからです。こういったお子さんの場合も、SOSサイクルを育てていくような接し方をしていくと、落ち着いてくるはずです。

  「言葉が遅れているから、友だちとうまく付き合えないのでは」とか、「お友だちの気持ちが分からないから、手が出るのだ」とか思われるような子どもも、実際は、「SOSサイクルという親子関係で不安・緊張が解消されないので、お友だちに近づく場面で、冷静ではいられなくなってしまう」というケースが多いのです。


●相手に主導権を譲れる
 自己中心的な一人遊びでは、自分のペースを守ることができます。遊びの主導権は、常に自分が握っています。しかし、お友達といっしょに遊ぶ場合は、自分が主導権を取ったり(自己主張)、主導権を相手に譲ったり(相手の主張の受け入れ)という、両方の局面が出てきます。
  もちろん、自己主張が強く、しかも遊びのアイデアやレパートリーが豊富というタイプの子は、主導権を取る場面が増えてくるでしょう。逆に、引っ込み思案な子は、主導権を取ることが、どうしても少なくなります。これは、子どもの個性の違いによるものです。特に、発達の遅い子は、どうしても主導権を取られがちになってしまいがちですが、「主導権を取られ、悔しい思いをしながらも、まずは集団参加の世界へ足を踏み入れようとしている」という努力は、認めてあげて良いのではないでしょうか。
 ところが、「遊びのアイデアやレパートリーが豊富」というタイプではないのに、妙に自分のペースにこだわり、相手に主導権を渡せない場合は、常に一人遊びに逃げ込んでしまうしかありません。こうなってしまう背景には、「がんこさ」というより、「不安」があります。「相手のペースにゆだねてしまうと、先が予想できない」という不安です。
 こういった子どもも、親子関係が進んでくると、つまり「プラスの気持ちの表現」と「マイナスの気持ちの表現(SOSサイクル)」が育ってくると、まず先に、ママとの遊びの中で、主導権を取ったり、譲ったりすることができるようになってきます。また、さらにその前を見ていくと、「ママの抱っこに、ゆったりと身をゆだねる」ということが、「相手のペースにゆだねる」ということの大切な前提になっているのです。そういった親子関係の土台ができていくようであれば、「お友だちとの付き合い方も、だんだん上手になってくるはず」と安心して見守っていてあげてよいのです。


●相手に「NO」と言える
 相手に主導権を譲れないのは、実は、「適切なときに、自己主張できない(NOと言えない)」ということに原因があることが多いようです。いざというとき、適切な形で「NO」を出す自信がない子は、お友だちに近づかないか、近づいてもマイペースを守り通すという形で、自分の身を守るしかありません。
 ところが、いざというときストップがかけられる(NOと言える)自信が育ってくれば、安心して相手のペースに身をゆだねることができるようになります。自分が持っているダンプカーのおもちゃだったら、貸してあげもいい。でも、一番のお気に入りの消防車のおもちゃは、ダメ! ちょっとだったらいいけど、いっぱいはダメ!  こういう自己主張を、ここぞというタイミングで出すことができる子どもは、相手に主導権を渡す場面があっても平気です。いざというときは、ちゃんと主導権を取り戻せる自信と安心感があるからです。
 かといって、「どうして、イヤな時に、イヤと言えないの?! ちゃんと言えばいいでしょ!」とあまり責められると、かえって自信をなくしてしまうもの。「NO」と言えない子どもは、言えない自分に対して、悔しい思いをしているはずです。むしろ、「イヤと言えなくて悔しいねえ」「でも、だんだん勇気が出てくるからね」と気持ちを分かってあげた方が、元気も出やすくなるものです。
  こういったお子さんが、ダダこねを始めたら、パワーアップの前兆。ダダこねは、ママを相手にした「NO」を言う練習のようなものですから。そのうち、友だちに対しても、ここぞという場面で「NO」が言えるようになって、主導権を取ったり、譲ったりというお友だち関係が楽しめるようになってくるはずです。


◆発達障害の心配がある子ども
 発達障害のお子さんは、一般的に、人との関係が育ちにくい傾向があります。親子関係が悪循環になったり、集団参加が難しかったり・・・。しかし、それは、「人と関わる力が弱い」という側面もさることながら、「親子関係という発達の土台が育ちにくい子どもなので、不安や緊張を慢性的に溜め込みやすい」という側面もしっかりと見ていく必要があります。SOSサイクルに完全なブレーキがかかっていると、「不安な表情さえ見せない」「本当は緊張しているのに、ニヤニヤしている」という場合もあります。
  こういったお子さんも、SOSサイクルを励ますような接し方をしていくと、育て方のコツが分かってくるはずです。


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