(5)最も多い原因

 親子関係が進みにくい原因のほとんどは、(1)~(4)以外のところにあります。ちょっとこみいった話になってしまうので、分かりにくいかも知れませんが、ガマンしてお付き合いください。

●生まれながらの繊細さ・心の緊張の強さ
  ママと一緒にいることがうれしい、かまってもらうのがうれしいといった、「プラスの気持ちの表現」。それから、不安やストレスが溜まったとき、ママに訴えて慰めてもらうという「マイナスの気持ちの表現(SOSサイクル)」。この2つの「表情や態度による気持ちの表現」を通して、親子関係は育っていきます。
 ところが、生まれつき繊細で心の緊張の強い子どもは、感情を解放するということへの恐れから、「泣きたい気持ち」をガマンしてしまうのです。
  大人の人でも、大胆で開けっぴろげな人は、喜怒哀楽を表に現します。しかし、繊細で神経質な人は、感情表現が苦手ですね。周りの人のことを気にしすぎ、配慮しすぎる傾向があるからです。それと同じようなことが、生まれつき繊細な心をもった子どもにも起きることがあります。ある意味、お母さんのことを配慮しすぎ、感情表現を遠慮してしまうのです。
  SOSサイクルがうまく機能しないと、不安や緊張が解消されず、「マイナス感情」を溜め込むようになります。そうなると、人との関わりや感情表現が苦しくなり、よけいに気持ちを抱え込むようになりがちです。さらに、積もり積もった不安・緊張が、「スネ」のような不機嫌さや怒りに変わっていくこともあります。その結果、親子関係にも摩擦が生じてきてしまいます。
  こうなると、「楽しい気持ちのやりとり」も盛り上がりません。そして、「ママと一緒にいることがうれしい」「かまってもらうのがうれしい」という、発達の土台となる親子関係も進みにくくなってしまうのです。
  こういうことは、むしろ、本来は感受性豊かで、優しいお子さんに多く見られます。そして、本来はとてもがんばり屋さんなのです。けれども悪循環が進み、不安や緊張を抱え込んでしまうと、「かわいげがない」「素直じゃない」「扱いづらい」「気むずかしい」「何を考えているのか分からない」という感じになってしまい、とてもそんなこと、信じられないかも知れません。表情・様子・行動は繊細とは正反対で、「がんばり屋さんだなんて、冗談じゃない」と思われるケースも少なくありません。
  しかし、SOSサイクルを中心とした親子関係が進み、本来のその子らしさが戻ってくると、「本当は優しい子だったんですね」と、多くのお母さんが感動されます。「ママが嫌い」どころではなく、「大好きなママに申し訳ないと思って、泣くのをガマンして、平気なふりをしてきたのでは?」と思うしかないような事がいろいろ出てきて、驚かされることもしばしばです。


●ショックな体験
  成長の早い段階に、SOSサイクルにブレーキがかかってしまうと、もうひとつ困ったことが起きてきます。このサイクルは、子どもの心の痛手やストレス解消のために不可欠なサイクルです。したがって、ブレーキがかかってしまうと、他の子だったら、乗り越えていけるような「ショックな体験」も、心の痛手として残りやすくなってしまうのです。
  また、生まれたときは、SOSサイクルがある程度機能していたけれども、ショックな体験をきっかけにブレーキがかかってしまった、というお子さんもいます。
  たとえば、「出産時のトラブル」「入院や手術」「断乳」「引っ越し」「下の子の誕生」といった体験は、そう珍しいことではありません。でも、こういった体験は、感じやすい子どもにとっては相当なストレスになります。ところが通常、それがあまり問題にならないのは、SOSサイクルが機能していると、いつの間にか心の痛手が解消されていくからです。「入院や手術の後の夜泣き」「断乳時のかんしゃく」「引っ越し直後の情緒不安定」「下の子の誕生時の、ダダこねや赤ちゃん返り」などは、むしろ、SOSサイクルが機能している証拠だと言えます。
  ところが、「気持ちを抱え込んでガマンしてしまう」というタイプの子は、ショックな体験でも、妙に平気そうだったりします。このような形でSOSサイクルにブレーキのかかってしまうと、そこでのストレスが、慢性的な不安感情(あるいは怒り)として蓄積されてしまうことがあります。「育てにくさ」の根っこを探っていくと、こういった「ショックな体験の時に溜め込んでしまった不安感情」に行き当たることもあります。「ショック体験にまつわる不安を慰めていくうちに、SOSサイクルが復活し、親子関係が進み始めた」ということもあるのです。
  また中には、お子さん自身のショック体験ではなく、ママのショック体験が、SOSサイクルにブレーキがかかるきっかけになっているような子もいます。もともとは、「大好きなママが大変そうだから、ボクは、寂しくても、悲しくても、平気なふりでガマンするぞ」という決意で、SOSサイクルにブレーキをかけてしまうのです。その結果、不安・緊張を溜め込み始め、かえってママを困らせるような手のかかる子になってしまった・・・というような、不本意な経過をたどっている子もいるのです。


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