◆ナウシカからの風

宮崎駿さんのアニメは、どれも大好きですが、その中でもマイベストは「風の谷のナウシカ」。恥ずかしながら、市販のビデオもしっかり持っています。家族にもさわらせないようにしまい込んであるので、本人でさえ、めったに目にしないぐらい(なんのこっちゃ)。そんなわけで、先日のTVでの放映は、久しぶりにかぶりついていました。

これを機会に、コミック版の「風の谷のナウシカ」を購入しました。「アニメージュ」という月刊誌に、12年間にわたって連載されていたものだそうで、全7巻という大作です。アニメは、コミック版の2巻の途中までをリメイクしたもので、本編の方は、その後のナウシカの「魂の修行の旅」ともいえる過程を克明にたどっています。
以前、知人の家で少し読んだとき、その内容の深さに驚き、「いつか、全巻を読んでみたい」と思いました。そしてこのたび、ようやく念願がかないました。ちょっと「哲学的」とも言える内容(この本を元に、哲学者の人が本を書いているぐらいですから)なので、考え考え、立ち止まりながら読み進めましたが、収穫は多かったです。

コミック版は、トルメキア王国と土鬼(ドルク)諸侯国の戦争を軸に物語が進んでいきます。血なまぐさい領土争いは、両国に多くの犠牲者を出し、さらには大地の怒りを買い、人類滅亡の危機に直面します。ナウシカは、憎しみあう両者の争いに翻弄されながらも、破滅への道を阻止するために、森の奥深くに眠っている「謎」に迫っていくのです。(今から読んでみたいという方のために、これ以上、ストーリーにはふれないでおきます)

怒りと憎悪に満ち満ちた人々に出会うとき、ナウシカは攻撃も屈服も選びません。この世界の本質に対する洞察力と、意思の力が、ナウシカの「武器」です。彼らは、恐怖と悲しみで我を忘れているだけであることを、ナウシカは知っています。時に、「いい子だね。こわくないよ」とやさしく呼びかけ、時に、「目を覚ましなさい!」と厳しく迫るのです。

「心安らかに、あの世を願おう」という虚無の話にも、耳を貸しません。「生きろ!」とナウシカは叫びます。
絶望に打ちひしがれそうになった時も、「心を鎮めて、目を見開いていれば、“森”(深い魂)が教えてくれる」とナウシカは言います。

物語の終わり近く、ナウシカは「清浄の地」に招かれます。不安も憎しみも争いも、死さえもない別天地。しかしナウシカは、そこを出るのです。「いたわりと友愛は、虚無の深淵から生まれた」と、ナウシカは言います。善と悪、不安と希望が交錯する「現実」の中で、限られた命を精一杯生き抜いていくことこそが人間としての誇りだと、混沌の中へと戻っていくのです。

私は、一生かかっても、ナウシカにはなれそうにもありません。ナウシカと自分を比べると、穴にでも入りたくなります。しかし、ナウシカから吹いてくる「風」を感じるとき、「人間としての誇り」を思い出せそうな気がします。


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